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高松高等裁判所 平成8年(ネ)204号 判決

第二〇四号事件控訴人、第一四四号事件被控訴人(「一審原告」という。)

甲野一郎

戸田勝

木下準一

金子武嗣

右四名訴訟代理人弁護士

原田香留夫

津川博昭

木村清志

横内勝次

中西裕人

一審原告甲野一郎、同木下準一、同金子武嗣訴訟代理人弁護士

戸田勝

一審原告甲野一郎、同戸田勝、同金子武嗣訴訟代理人弁護士

木下準一

一審原告甲野一郎、同戸田勝、同木下準一訴訟代理人弁護士

金子武嗣

第一四四号事件控訴人、第二〇四号事件被控訴人(「一審被告」という。)

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右指定代理人

前田幸子

外八名

主文

一  一審被告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告は、一審原告甲野一郎に対し、金二五万円及び内金一五万円に対する平成三年八月二七日から、内金一〇万円に対する平成四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審被告は、一審原告戸田勝に対し、金五万円及びこれに対する平成三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審被告は、一審原告木下準一に対し、金一〇万円及びこれに対する平成三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  一審被告は、一審原告金子武嗣に対し、金五万円及びこれに対する平成三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  一審原告らの控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を一審原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  一審原告ら

1  原判決を次のとおり変更する。

2  一審被告は、一審原告甲野一郎に対し、金二四〇万円及び内金七〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金一六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審被告は、一審原告戸田勝に対し、金一〇〇万円及び内金三〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  一審被告は、一審原告木下準一に対し、金一一〇万円及び内金四〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  一審被告は、一審原告金子武嗣に対し、金六〇万円及び内金一〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金五〇万円に対する同四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  一審被告の控訴を棄却する。

7  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

8  2ないし5項につき仮執行宣言

二  一審被告

1  原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。

2  一審原告らの請求をいずれも棄却する。

3  一審原告らの控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。

5  仮定的に担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  事案の概要

一  本件は、徳島刑務所内で刑務所職員に暴行を受けた等として国家賠償請求訴訟を提起した懲役刑受刑者である一審原告甲野一郎及び右訴訟の訴訟代理人であるその余の一審原告らが、刑務所長によって違法に接見を妨害され、精神的苦痛を被ったとして、一審被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき慰謝料を請求した事案である。

争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実については、次のとおり補正するほかは、原判決四枚目裏六行目から同一〇枚目表五行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決五枚目表九行目の「提起され」の次に「(平成二年(ワ)第三三二号)」を、同一〇行目の「右訴訟」の次に「、その他の民事訴訟及び再審事件」を、それぞれ加える。

2  同六枚目表一、九行目及び同裏六行目の各「乙1」の次に「、23」をそれぞれ加え、同七枚目表六行目の「乙1」を「乙23」と改め、同裏二、八行目、同八枚目表二、八行目、同裏四行目、同九枚目表一、八行目、同裏三、一〇行目及び同一〇枚目表五行目の各「乙1」の次に「、23」をそれぞれ加える。

二  争点

次のとおり補正するほかは、原判決一〇枚目表七行目から同二七枚目裏二行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一七枚目裏二、三行目の「国連被拘禁者保護原則」の次に「(あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則、以下「被拘禁者保護原則」という。)」を、同一〇行目の「いるのである。」の次に「右被拘禁者保護原則18やヨーロッパ人権規約六条の解釈は、訴訟における「武器の平等の原則」からみて当然のことということができる。」を、それぞれ加える。

2  同一九枚目裏七行目の末尾に改行して、「このように、憲法三二条、B規約一四条一項は当然に受刑者と弁護士との無条件の接見を認めており、これは受刑者の権利であるばかりか弁護士の権利でもある。」を加え、同二〇枚目表五行目の「(二)」を「(2)」と改め、同二一枚目裏七行目の「(1)」を削除する。

3  同二一枚目裏一行目から同五行目までを次のとおり改める。

「(1) B規約一四条一項の解釈に当たっては、条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。)が解釈の指針となるとしても、その三一条では条約の解釈に関する一般的な規則を定めており、同条一項は「条約は文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」とし、同条二項は「条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほかに、次のものを含める。(a)条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意、(b)条約の締結に関連して当事国の一または二以上が作成した文書であってこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの」とし、同条三項は、「文脈とともに、次のものを考慮する。(a)条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意、(b)条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」とし、さらに同条四項は「用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図していたと認められる場合には、当該特別の意味を有する。」としている。この条約法条約三一条の規定からすれば、条約の解釈は同条一項が規定するように、用語の通常の意義に従い誠実に解釈されるべきものである。

(2) B規約一四条一項を、右条約法条約三一条一項の規定に基づき検討してみると、B規約一四条一項第一文は、すべての者は裁判所の前には平等に取り扱われるべきものとしており、したがって、例えば「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等」のいかんなどによって、裁判所の門戸が開閉されたり、法律が不平等に適用され判断が偏ったりすることは許されないとの意であると解され、また、第二文は、すべての者が、刑事・民事を問わないすべての裁判について、「法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。」と規定しているのであって、右のような第一文及び第二文の意味は、これ以上の特別の意味を有すると解することはできず、憲法一四条一項が法の下の平等を保障し、三二条が裁判を受ける権利を保障し、また、三七条一項が刑事事件における公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を保障していることと同義であると解される。

そうすると、B規約一四条一項の規定からは、そのコロラリーとして受刑者が民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利を保障していると解するのは無理があり、まして当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないと解することは到底できないものである。このことは、同条全体の文脈に照らしてみても、同条三項が刑事手続上の保障を受けることができる権利についての特別の規定を設け、とりわけ、(b)において、刑事手続上「防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。」と規定しているのに、民事上の手続について何ら言及していないことからも明らかである。

(3) B規約一四条一項を解釈するに当たっては、ヨーロッパ人権条約の当事国がB規約の当事国の一部にすぎず、我が国もヨーロッパ人権条約の当事国にはなっていないのであるから、ヨーロッパ人権条約六条一項の解釈は条約法条約三一条三項(c)の「当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」には該当せず、また、一九八八年一二月九日に国連第四三回総会決議で採択された被拘禁者保護原則は、条約の規定に関する当事国の一定の適用が繰り返され、それが慣行化されたもの、とは到底いえず、条約法条約三一条三項(b)には該当しないものである。したがって、右ヨーロッパ人権条約六条一項の解釈及び被拘禁者保護原則をその解釈基準とすることはできない。

なお、条約法条約三二条は、条約の解釈の補足的手段として、同条約三一条の規定によっては意味があいまい又は不明確である場合等には、条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができるとしている。しかし、B規約一四条一項の意味は条約法条約三一条の規定に照らして明確であり、同条約三二条にいう条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠してB規約一四条一項の意味を決定することは適当ではない。そして、B規約の草案が検討された経緯においても、受刑者が民事裁判を提起するために弁護士と面接する権利を含むか否かが検討されたことは窺えないのであり、この点からみても、B規約一四条一項が受刑者が民事裁判の訴訟代理人たる弁護士と接見する権利をも保障する趣旨を含んでいると解することはできない。」

4  同二六枚目表一〇、一一行目の「代わらない」を「変わらない」と改める。

三  証拠関係

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  B規約一四条一項、憲法三二条、監獄法及び同法施行規則の解釈について次のとおり補正するほかは、原判決二七枚目裏六行目から同三三枚目裏三行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二八枚目裏九行目の「ウィーン条約は、」の次に「その第三部の」を加え、同二九枚目表五行目の「しかるところ、」から同三〇枚目表一一行目までを「B規約一四条一項の文脈による解釈としては、その第一文では「すべての者は、裁判所の前に平等とする。」とあって、憲法一四条一項が保障するところの法の下における平等と同様の平等原則を意味し、その第二文では「法律で設置された、権限のある、独立の、かつ公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利」とあって、憲法三二条が保障するところの政治権力から独立の公平な司法機関に対しすべての個人が平等に権利・自由の救済を求め、かつそのような公平な裁判所以外の機関から裁判されることのない権利であって、当該事件に対して法律上正当な管轄権を有する裁判所で権限のある裁判官の裁判を受ける権利であり、裁判の拒絶が許されないこと及び憲法八二条が保障するところの対審及び判決の公開原則を意味しているものと解される。そして、この権利の内実をより明確に解釈するために、条約法条約では文脈とともにその三一条三項に掲げる、(a)条約の解釈又は適用につき当事国間で後にされた合意、(b)条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則、を考慮すると定められているものと解される。

ところで、B規約草案を参考にして作成されたヨーロッパ人権条約では、B規約一四条一項に相当するその六条一項で、同規約と共通する内容で公正な裁判を受ける権利を保障しており、右条約に基づき設置されたヨーロッパ人権裁判所におけるゴルダー事件においては、右六条一項の権利には受刑者が民事裁判を起こすために弁護士と面接する権利を含む、との判断が、また同裁判所におけるキャンベル・フェル事件においては、右面接に刑務官が立ち会い、聴取することを条件とする措置は右六条一項に違反する、との判断がなされている(甲62、63の1、2、72の1、2、証人北村泰三)。ヨーロッパ人権条約は、その加盟国がB規約加盟国の一部にすぎず、我が国も加盟していないことから、条約法条約三一条三項(c)の「当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」とはいえないとしても、ヨーロッパの多くの国々が加盟した地域的人権条約としてその重要性を評価すべきものであるうえ、前記のようなB規約との関連性も考慮すると、条約法条約三一条三項における位置づけはともかくとして、そこに含まれる一般的法原則あるいは法理念についてはB規約一四条一項の解釈に際して指針とすることができるというべきである。また、被拘禁者保護原則は国連総会で採択された決議であって、直ちに法規範性を有するものではなく、被拘禁者の弁護士との接見に関して定めたこの原則18に関し、当事国による適用が繰り返され慣行となっているとまで認めるに足りる証拠はなく、条約法条約三一条三項(b)の「条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの」に該当すると解することは困難である。しかし、右被拘禁者保護原則は、「法体系又は経済発展の程度の如何にかかわりなく、ほとんどの諸国においてさしたる困難もなく受入れうるもの。」として専門家によって起草され、慎重な審議が行われた後に積極的な反対がないうちに採択されたもの(甲62)であることを考慮すれば、被拘禁者保護について国際的な基準としての意義を有しており、条約法条約三一条三項(b)に該当しないものであっても、B規約一四条一項の解釈に際して指針となりうるものと解される。

右ヨーロッパ人権条約についてのヨーロッパ人権裁判所の判断及び国連決議の存在は、受刑者の裁判を受ける権利についてその内実を具体的に明らかにしている点において解釈の指針として考慮しうるものと解される。

なお、規約人権委員会(B規約二八条)は、モラエル対フランス事件において、市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書(B規約第一選択議定書)五条四項に基づき、B規約一四条一項における公正な審理の概念は、武器の平等、当事者対等の訴訟手続の遵守を要求していると解釈すべきである、との見解を示している(甲65)ことも前記解釈について参考とすべき事情といえる。

以上の諸事情を勘案すれば、B規約一四条一項は、その内容として武器平等ないし当事者対等の原則を保障し、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり、接見時間及び刑務官の立会いの許否については一義的に明確とはいえないとしても、その趣旨を没却するような接見の制限が許されないことはもとより、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項については、右B規約一四条一項の趣旨に則って解釈されなくてはならない。なお、付言すると、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由は、広い意味において憲一三条の保障する権利ないし自由に含まれると解することができ、その点からも、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項については、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利にも配慮した解釈がなされなくてはならない。」と改める。

2  同三一枚目表七行目の「そして」から同裏七行目の「考える。」までを「従って、前記のように憲法一三条で保障されているものと解される受刑者の弁護士との接見の権利ないし自由についても、これを尊重し、右の合理的な範囲を超えた制約が許されないことはいうまでもない。」と改め、同一〇行目の「弁護権」の前に「依頼者に対する債務とは別にその地位ないし使命から生ずる固有の」を加え、同三二枚目表九行目の「並びに接見の権利の重要性」を削除する。

3  同三三枚目裏三行目の末尾に改行して、「すなわち、受刑者とその民事事件の訴訟代理人である弁護士との接見について、当該事件の進捗状況及び準備を必要とする打合せの内容からみて、具体的に三〇分以上の打合せ時間が必要と認められる場合には、相当と認められる範囲で時間制限を緩和した接見が認められるべきである。また、当該民事事件が、当該刑務所内での処遇ないしは事件を問題とする場合には、刑務所職員が立ち会って接見時の打合せ内容を知りうる状態では十分な会話ができず、打合せの目的を達しえないことがありうることは容易に理解しうるところであって、現に接見の経験を有している弁護士が問題として指摘するところである(甲79の1ないし11、85、証人八重樫和裕)。そのような状態で訴訟を進めなければならないとすれば、受刑者であることゆえに訴訟において不利な立場に置かれ、訴訟における「武器の平等の原則」に反し、裁判の公正が妨げられることになるのであるから、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあって会話を聴取している状態では十分な打合せができないと認められる場合には、その範囲で刑務所職員の立会いなしでの接見が認められるべきである。従って、三〇分以上の打合せ時間の具体的必要性が認められる場合に、相当と認められる範囲で接見時間の制限を緩和しなかったとき、また、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあっては十分な打合せができないと認められる場合に、刑務所職員の立会いなしの接見を認めなかったときには、裁量権の行使を逸脱ないしは濫用したものと解するのが相当である。なお、この場合、刑務所職員の立会いなしの接見とは、監視もされないということを意味するものではなく、受刑者と弁護士の会話の内容が刑務所職員に聞かれることのない状態を意味するものであって、被拘禁者保護原則18の四項でも「法執行官は監視できるが聴取することはできない。」と定めている(甲72の1、2、80)。」を加える。

二  接見制限の有無及び態様とその違法性について

次のとおり補正するほかは、原判決三三枚目裏五行目から同四七枚目裏七行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三三枚目裏七行目の「甲10の1ないし9」を、「甲10の1ないし10、10の12、10の16、10の18、10の21、10の24、10の27、10の29」と改める。

2  同三六枚目裏五行目の「仮に」から同六行目の「いい得る。」までを、「一概に接見業務に著しい支障を来すことになるとはいいきれない。」と、同三七枚目表三行目の「甲20の1、2ないし30の1、2」を「甲20ないし30(枝番を含む。)」、同裏八行目冒頭から同三八枚目表四行目末尾までを「そこで、具体的な必要性について①ないし⑥、⑧及び⑨の各接見について次に検討する。

①及び②については、それぞれの面会許可申請書に、面会事由として、大阪地方裁判所平成二年(ワ)第三〇五四号事件の一一月二一日一審原告甲野本人尋問の準備のため、との記載がある(甲10の10、10の12)。訴訟における本人尋問は、証拠調べの中でも重要なものであって、その打ち合わせには十分な時間が必要であることは容易に理解することが可能である。そして②の申請書には一審原告甲野本人の主尋問の時間が一時間三〇分でその準備に最低二時間が必要との具体的な記載があり、接見を希望する日が平成二年一一月二〇日であって本人尋問がなされる前日であること及び申請書の記載からみても面会しての打合せには三〇分以上の時間が必要であったことが認められる(一審原告木下準一)。

③については、その面会申請書に、面会事由として暴行事件訴訟に関して一審原告甲野の在監経過等事実調査及び打合せのためとの記載がある(甲10の16)。しかし、この記載から直ちに三〇分以上の時間が必要であると認めるのは困難であり、接見を求めた津川弁護士及び木村弁護士は、面会の当日、担当する黒岩課長に三〇分以上の時間の接見を求めたことが認められる(証人津川博昭)が、その必要性について具体的に明らかになっていたと認めるに足りる証拠はない。

④については、面会申請書に面会事由として記載されている事項のうち、六〇分を必要とするとされている暴行事件訴訟外一件の国家賠償請求事件の打合せは、その記載によれば期日の経過と今後の方針についての打合せ(甲10の18)であって、この記載から直ちに三〇分以上の時間が必要であると認めるのは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。

⑤については、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、民事事件四件及び国家賠償事件二件の打合せ並びに再審の準備状況について(甲10の21)というもので、件数が多いことからみて、接見時間がある程度必要であることは窺われるものの、民事事件四件のうち三件は事件番号が連続していることからみて関連事件であることが推測され、そうであればそれぞれの事件について別個の打合せまでは必要のないこともあり、また、打合せの内容としては、民事事件一件について和解成立後の履行について、とされているのみで、その余の事件については明らかではなく、この申請書の記載から直ちに三〇分以上の時間が具体的に必要であると認めるのは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。

⑥については、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、再審の準備状況、面会についての新訴提起について、国家賠償事件二件及び民事事件の打合せのため(甲10の24)というものであり、この申請書の記載から直ちに三〇分以上の時間が具体的に必要であると認めることはできず、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。

⑧については、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、再審の準備状況、大阪地方裁判所の国家賠償事件の鑑定方法の打合せ、徳島地方裁判所の国家賠償事件二件の準備及び民事訴訟事件の打合せ(甲10の27)というもので、打合せや準備の内容としては、民事事件に関してその対策のために告訴する件及び新たな示談提起について、とされているのみで、その余の事件については明らかではなく、この申請書の記載から三〇分以上の時間が具体的に必要であるかどうかは不明であって、直ちに三〇分以上の時間が必要であると認めるのは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。

⑨については、面会申請書に面会事由として記載されている事項は、再審の準備状況、徳島地方裁判所の国家賠償事件二件の準備及び民事訴訟事件の打合せ(甲10の29)というもので、打合せや準備の内容としては、再審に関しては証人の供述の説明、徳島地方裁判所の国家賠償事件二件(暴行事件訴訟及び本件)に関しては一一月二〇日の期日の説明と今後の対策、民事事件に関しては新たな示談提起について、とされている。これらのうち、証人の供述の説明については、具体的な事実経過を説明し質問に応答するとすればかなりの時間がかかる場合があることは予測できないではないが、書面で補う可能性も否定できないし、常にそのようにはいえないこと、また、他の事件に関する事項と総合してみても、具体的に三〇分以上の時間が必要であったとまで認めることは困難であり、他に三〇分以上の時間が必要であったと認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、①及び②の接見については、具体的に三〇分以上の必要性が認められる場合であるにもかかわらず、相当な範囲で制限を緩和しなかった点に裁量権を逸脱した違法があるというべきであるが、その余の③ないし⑥、⑧及び⑨の各接見については、具体的な必要性が明確であったとは認め難く、三〇分と制限したことが裁量権を逸脱し、濫用したものとまではいえないと解するのが相当である。」と、それぞれ改める。

3  同三九枚目表七行目の「主張する」から同裏六行目までを「主張し、当該刑務所における処遇等の事実関係にわたる打合せが接見の主要な目的となっている場合には、訴訟における「武器の平等の原則」から刑務所職員の立会い(会話を聞くこと)なしの接見を認めるべきことは前述のとおりである。この点から①ないし⑥、⑧及び⑨の接見について検討すると、面会許可申請書の面会事由に、暴行事件訴訟についての準備又は打合せが記載されているのは①、③ないし⑥、⑧及び⑨である(前掲の各接見日に関する甲号証)。従って、まず②については、前記の理由により立会いを不可とすべき事情はない。その余のうち、③については、一審原告甲野の在監経過等事実調査が接見の目的となっていることが明確であり、このような場合には刑務所職員が立ち会って会話内容を知り得る状態では率直な話ができず、打合せに支障を来すことが認められるが、その余の⑤、⑥の場合は単に打合せ(甲10の21、10の24)、⑧の場合は準備(甲10の27)、①、④、⑨の場合は期日の経過説明と今後の方針または対策(甲10の10、10の18、10の29)というものであって、期日の経過説明については、過去の公開された裁判の経過を説明するものであるから、刑務所職員の立会いがあったからといって、暴行事件訴訟において一審原告甲野が不利な立場に置かれることはなく、刑務所職員の立会いが違法となるとは解されないが、単なる打合せ或いは準備というのでは、立ち会っては打合せに支障を来すような事実関係にわたるものかどうかは不明であって、このような場合には、不測の事態に備えて刑務所職員が立ち会うことが直ちに違法となるものと解することはできない。そうすると、本件において、右③の接見の際に刑務所職員を立ち会わせたことは違法であったといえるが、その余の場合には前記戒護上、処遇上の目的を達成するための合理的範囲内にとどまるものと認められ、裁量権の逸脱又は濫用があったとはいい難い。」と改める。

4  同四一枚目裏八行目の「証人黒岩」の前に「乙16、17」を加える。

5  同四三枚目表五行目の「乙5、」の次に「16、18ないし20、」を加え、同四四枚目表二、三行目の「証言するが、」を「証言し、これに添う証拠として乙16号証が存在するが、右証言によってもすべての電話内容について電話書留簿に記載されるものではないことが認められ、したがって津川弁護士からの電話連絡について電話書留簿に記録がなかったとしても、記載のないことが必ずしも津川弁護士からの電話連絡がなかったことにはならず、」と、同四六枚目表八行目の「10」を「11」と、それぞれ改める。

6  同四七枚目表三行目の「以上を総合考慮すると、」を「また、岡山大学医学部神経内科城洋志彦の鑑定書(甲77)によれば、同人は平成九年二月二一日に一審原告甲野を診察し、その鑑定結果として一審原告甲野の胸椎下部に黄色靭帯の骨化による第一ないし二腰髄神経レベルの神経障害があり、同人の訴える症状と矛盾するものではなく、骨化は進行していること、また頚椎の変形が認められ、第五ないし六頚髄あたりの頚髄及び神経根の損傷、病変として同人の訴える症状と合致すること、の各事実が認められているが、同鑑定書には、平成三年四月二日の時点での持続的な神経根の症状や脊髄の症状はなかったものと考えられる旨の記載がある。以上を総合考慮すると、⑪ないし⑭の接見当時、」と改める。

三  徳島刑務所長の故意、過失等について

次のとおり補正するほかは、原判決四七枚目裏九行目から同四八枚目裏六行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四七枚裏九行目の「各接見について」の次に「、刑務所職員の立会いのもとで」を加える。

2  同四八枚目表三行目の「そうすると、」から同六行目の「いうべきであるから、ここに」までを「そして、前記二で認定したとおり、面会許可申請書の記載自体から①及び②の接見については三〇分以上の時間が必要であったことが認められ、③の接見については刑務所職員の立会いがあっては打合せに支障が生ずることが認められるのであるから、これらの面会許可申請書を検討すれば、条件を緩和して接見を認めるべきことを認識し得たものというべきであり、」と改める。

四  一審原告らの損害について

以上のとおり、①及び②の接見について接見時間を三〇分に制限されたこと、③の接見について刑務所職員の立会いがあったこと及び⑩の接見ができなかったことによって、一審原告らは精神的苦痛を被ったものと認められ、本件における諸般の事情を考慮すると、①ないし③の接見の制限についてその精神的苦痛を慰謝するには、各一審原告において一回の接見について五万円(一審原告甲野について三回合計一五万円、同戸田弁護士について①の一回五万円、同木下弁護士について①及び②の二回合計一〇万円、同金子弁護士について②の一回五万円)が相当であり、⑩の接見できなかったことによる一審原告甲野の精神的苦痛を慰謝するには一〇万円が相当である。

第四  結論

以上のとおり、一審原告らの本訴訟請求は、一審原告甲野が金二五万円及び内金一五万円に対する訴状(原審平成三年(ワ)第二六四号)送達の日の翌日である平成三年八月二七日から、内金一〇万円に対する訴状(原審平成四年(ワ)第二六八号)送達の日の翌日である平成四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同戸田弁護士が金五万円、同木下弁護士が金一〇万円、同金子弁護士が金五万円及びこれらに対する平成三年八月二七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるが、その余は失当であって棄却を免れない。

よって、これと結論を異にする原判決を右の趣旨にしたがって変更し、一審原告らの本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言については相当ではないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大石貢二 裁判官一志泰滋 裁判官重吉理美)

《参考 原審判決》

主文

一 被告は、原告甲野一郎に対し、金五〇万円及び内金二五万円に対する平成三年八月二七日から、内金二〇万円に対する同四年七月二八日から、内金五万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二 被告は、原告戸田勝に対し、金二〇万円及び内金一五万円に対する平成三年八月二七日から、内金五万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 被告は、原告木下準一に対し、金三五万円及び内金二〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金一〇万円に対する同四年七月二八日から、内金五万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四 被告は、原告金子武嗣に対し、金一〇万円及び内金五万円に対する平成三年八月二七日から、内金五万円に対する同四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第一 請求

一 被告は、原告甲野一郎に対し、金二四〇万円及び内金七〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金一六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二 被告は、原告戸田勝に対し、金一〇〇万円及び内金三〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 被告は、原告木下準一に対し、金一一〇万円及び内金四〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金六〇万円に対する同四年七月二八日から、内金一〇万円に対する同六年一月一八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四 被告は、原告金子武嗣に対し、金六〇万円及び内金一〇万円に対する平成三年八月二七日から、内金五〇万円に対する同四年七月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

本件は、徳島刑務所内で刑務所職員に暴行を受けたなどとして国家賠償請求訴訟を提起した懲役刑受刑者である原告甲野一郎及び右訴訟の訴訟代理人弁護士であるその余の原告らが、刑務所長によって違法に接見を妨害され、精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案である。

(争いのない事実等―末尾に証拠の記載がないものは当事者間に争いがない)

一 当事者等

1(一) 原告甲野一郎(以下「原告甲野」という。)は、平成二年四月二六日以降、徳島刑務所に拘禁されている懲役刑受刑者である。

(二) 原告戸田勝、同木下準一及び同金子武嗣並びに津川博昭及び木村清志は、いずれも弁護士であり、原告甲野が、平成二年四月から同年七月まで、徳島刑務所において、同刑務所管理部保安課職員により暴行を受けたり、身体的に苦痛を伴う無理な姿勢を強制され、また、いわれのない懲罰処分を受けたとして、国を被告として提起した不法行為に基づく損害賠償請求事件(以下「暴行事件訴訟」という。)の訴訟代理人である(以下、それぞれ「原告戸田弁護士」、「原告木下弁護士」、「原告金子弁護士」、「津川弁護士」、「木村弁護士」という。)。

2 被告は、原告甲野が拘禁されている徳島刑務所を設置、運営、管理するものであり、同刑務所長は公務員である。

二 徳島刑務所長の接見に対する措置

平成二年八月八日、暴行事件訴訟が徳島地方裁判所に提起され、原告弁護士らは、右訴訟の主張立証をなす必要から、同年一〇月から同四年二月にかけて、徳島刑務所に赴き原告甲野との接見を求めたところ、徳島刑務所長は、以下のとおりこれを制限するなどの措置を採った。

① 原告戸田弁護士、同木下弁護士及び木村弁護士は、平成二年一〇月三一日付け面会許可申請書により、同年一一月七日、再審準備(一〇分)、民事訴訟事件の打合せ(一〇分)、暴行事件訴訟を含む国家賠償請求事件の打合せ(六〇分)のため、原告甲野との八〇分間の、かつ、国家賠償請求事件については国を被告とするものであり、殊に暴行事件訴訟については徳島刑務所を実質的被告とするものであることを理由として、国家賠償請求事件の打合せについては刑務所職員の立会いなしの接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、原告戸田弁護士、同木下弁護士及び木村弁護士は、当日午後三時二分から同三時四〇分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の10、10の11、乙1)。

② 原告木下弁護士及び同金子弁護士は、平成二年一一月一四日付け面会許可申請書により、同月二〇日、大阪地方裁判所係属の国家賠償請求事件の準備のため、原告甲野との二時間の、かつ、同事件が国を被告とするものであることを理由として、刑務所職員の立会いなしの接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、原告木下弁護士及び同金子弁護士は、当日午後三時四二分から同四時二二分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の12、乙1)。

③ 津川弁護士及び木村弁護士は、平成二年一二月二〇日付け面会許可申請書により、同三年一月九日、暴行事件訴訟の事実調査及び打合せのため、原告甲野との一時間の、かつ、暴行事件訴訟については徳島刑務所を実質的被告とするものであることを理由として、刑務所職員の立会いなしの接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、津川弁護士及び木村弁護士は、当日午前一一時五分から同一一時三八分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の16、乙1)。

④ 原告戸田弁護士、同木下弁護士及び木村弁護士は、平成三年一月二三日付け面会許可申請書により、同月三〇日、再審準備(一〇分)、民事訴訟事件の打合せ(一〇分)、暴行事件訴訟を含む国家賠償請求事件の打合せ(六〇分)のため、原告甲野との八〇分間の、かつ、国家賠償請求事件については国を被告とするものであり、殊に暴行事件訴訟については徳島刑務所を実質的に被告とするものであることを理由として、国家賠償請求事件の打合せについては刑務所職員の立会いなしの接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、原告戸田弁護士、同木下弁護士及び木村弁護士は、当日午後三時一五分から同三時四五分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の18、乙1)。

⑤ 原告戸田弁護士、同木下弁護士及び木村弁護士は、平成三年三月一五日付け及び同月一八日付け面会許可申請書により、同月二〇日、暴行事件訴訟等の打合せのため、原告甲野との接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、原告戸田弁護士、同木下弁護士及び木村弁護士は、当日午後二時四五分から同三時二二分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の21、10の22、乙1)。

⑥ 原告戸田弁護士、同木下弁護士らは、平成三年五月二一日付け面会許可申請書により、同月二九日、暴行事件訴訟等の打合せのため、原告甲野との接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、原告戸田弁護士及び同木下弁護士は、当日午後二時五五分から同三時三〇分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の24、乙1)。

⑦ 原告戸田弁護士、同木下弁護士及び同金子弁護士は、平成三年八月一六日付け面会許可申請書により、同月二一日、暴行事件訴訟等の打合せのため、原告甲野との接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、原告甲野が拒食中であって、身体的に衰弱していることを理由に接見を不許可とした(甲10の26、乙1)。

⑧ 原告木下弁護士らは、平成三年九月二六日付け面会許可申請書により、同年一〇月二日、暴行事件訴訟等の打合せのため、原告甲野との接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、原告木下弁護士は、当日午後一時二三分から同一時五六分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の27、乙1)。

⑨ 原告戸田弁護士、同木下弁護士及び同金子弁護士は、平成三年一一月一五日付け面会許可申請書により、暴行事件訴訟等の打合せのため、同月二〇日、原告甲野との接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、原告戸田弁護士について接見の許可を与えず、原告木下弁護士及び同金子弁護士については、保安課職員の立会いと時間を三〇分以内とするとの条件を付して接見を許可し、原告木下弁護士及び同金子弁護士は、当日午後二時五二分から同三時二〇分まで保安課職員立会いのもと原告甲野と接見した(甲10の29、乙1)。

⑩ 津川弁護士は、平成三年一二月三日付け面会許可申請書及び同月五日付け補充書により、暴行事件訴訟等の打合せのため、同月六日、原告甲野との接見の許可を求めたが、徳島刑務所保安課長黒岩喬(以下「黒岩保安課長」という。)から、同月五日、原告木下弁護士を通じ、原告甲野が懲罰執行中であり、懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性が認められない旨の連絡を受け、当日、徳島刑務所に赴いたが、面会を求めた黒岩保安課長にも徳島刑務所長にも会議中であるとの理由で会うことができず、原告甲野と接見するに至らなかった(甲10の31、乙1、5)。

⑪ 津川弁護士は、平成三年一二月六日付け面会許可申請書及び同月一一日付け補充書により、暴行事件訴訟等の打合せのため、同月一二日、原告甲野との接見の許可を求め、徳島刑務所長はこれを許可したが、当日、面会室において、原告甲野が身体が痛くて椅子には座れない、床に横になったまま面会させてほしいと言ったため、その報告を受けた徳島刑務所長は、原告甲野が故意に椅子に座らないものであるとして接見を中止させた(甲17の1、17の2、乙1)。

⑫ 原告木下弁護士は、平成三年一二月一八日付け面会許可申請書により、暴行事件訴訟等の打合せのため、同月二六日、原告甲野との接見の許可を求め、徳島刑務所長はこれを許可したが、当日、原告甲野が椅子には座れない、床に横になったまま面会させてほしいと言ったため、その報告を受けた徳島刑務所長は、原告甲野が故意に椅子に座らないものであるとして接見を中止させた(甲10の30、乙1)。

⑬ 津川弁護士は、平成四年二月五日付け面会許可申請書により、暴行事件訴訟等の打合せのため、同月七日、原告甲野との接見の許可を求め、徳島刑務所長はこれを許可したが、当日、原告甲野が椅子には座れない、刑務所側が提案した面会室の床にゴザを敷いてその上で胡座を組むという姿勢もとれないと言ったため、その報告を受けた徳島刑務所長は、原告甲野が故意に椅子に座らず、床の上で胡座を組む姿勢もとらないものであるとして接見を中止させた(甲16の1、乙1)。

⑭ 原告戸田弁護士及び同金子弁護士は、平成四年二月一〇日付け面会許可申請書により、暴行事件訴訟等の打合せのため、同月一二日、原告甲野との接見の許可を求め、徳島刑務所長はこれを許可したが、当日、原告甲野が椅子には座れないなどと言ったため、その報告を受けた徳島刑務所長は、原告甲野が故意に椅子に座らないものであるとして接見を中止させた(甲16の2、乙1)。

(争点)

一 接見制限の有無及び態様

1 原告らの主張

(一) 争いのない事実二記載の①ないし⑥、⑧及び⑨(原告木下弁護士及び同金子弁護士)の各接見(以下、①というように番号のみで記す。)につき、原告弁護士らは、いずれの接見についても刑務所職員の立会いなしの三〇分を超える時間の接見を求めたが、徳島刑務所長は、時間を三〇分以内とし、かつ、保安課職員の立会いを義務付け、接見に制限を加えた。原告弁護士らは、⑤以下の接見許可申請書において、刑務所職員の立会なしの三〇分を超える時間の接見を求める旨記載していないが、これは徳島刑務所側から、今後面会許可申請書に三〇分を超える面会時間と立会人なしという要望は記載しないでほしい、記載した場合はそれだけで面会を許可しないと言われたからであって、原告弁護士らが終始刑務所職員の立会いなしの三〇分を超える時間の接見を求めていたことに変わりはない。

(二) ⑦につき、当時、原告甲野の健康状態は接見により身体保全上の危険を伴うほどのものではなく、徳島刑務所長は、恣意的に接見を不許可とした。

(三) ⑨につき、徳島刑務所長は、原告戸田弁護士は接見の必要がないとして接見を不許可とした。

(四) ⑩につき、これまでに懲罰中の接見であっても面会許可申請書の記載が特に問題にされたことはなかったにもかかわらず、突然接見を許可する緊急性、必要性の疎明を求められたものであり、津川弁護士は、接見予定日前日に、明日徳島刑務所に行って必要があれば事情を説明すると黒岩保安課長に伝えていたのであるから、当日黒岩保安課長及び徳島刑務所長が会議中であることを理由に津川弁護士に会わなかったということは、徳島刑務所長による接見拒否というべきである。

(五) ⑪ないし⑭につき、原告甲野には胸(腰)椎圧迫、頚椎の神経根圧迫があったことは明らかであり、椅子に座ることも床に敷いたゴザの上で胡座を組むことも苦痛を伴い困難であった。それにもかかわらず、椅子に座るか床に敷いたゴザの上で胡座を組まない限り接見を許さないということは、徳島刑務所長による接見拒否といわなければならない。

2 被告の主張

(一) 原告弁護士らは、⑤以下の接見において、刑務所職員の立会いなしの三〇分を超える時間の接見を求めていない。

(二) ⑦について

原告甲野は、平成三年八月六日、刑務所職員に対する暴行を理由として保護房に拘禁されたが、拘禁直後からその処遇に対する不満をあらわにし、同日の昼食から拒食を始め、職員の再三にわたる指導にもかかわらず保護房拘禁が解除となった同月一〇日以降も拒食を続け、同月一二日、徳島刑務所医務課医師の診察によって全身衰弱が認められたので、徳島刑務所長は、右医師の指示に基づき、原告甲野の生命及び健康を維持する必要上、同日から随時鼻孔経管強制給養等を実施するとともに、作業を免除して病者に準ずる処遇を実施することとし、面会についてもそのつど医師の指示によることとした。同月二一日、原告弁護士らが原告甲野との接見のため徳島刑務所を訪れたが、同所長は、原告甲野の健康状態に照らして面会を許可することが適当かどうか同所医務課長杉本薫(以下「杉本医務課長」という。)に指示を求めたところ、依然として全身衰弱が認められ起居動作に難渋しており、その生命及び健康を維持するため強制給養を実施しなければならない状況であって、原告甲野を面会室まで連行し原告弁護士らと接見させれば、多大な体力の消耗、その他身体保全上の危険が伴うおそれが予測される旨の回答があったため、接見を許可しないこととした。

(三) ⑨(原告戸田弁護士の接見不許可)について

面会許可申請書が徳島刑務所に到達した当時、原告甲野は軽屏禁・文書図画閲読禁止の懲罰執行中であった。軽屏禁とは、「受刑者ヲ罰室内ニ昼夜屏居セシメ」る処分(監獄法六〇条二項)であり、厳格な隔離によって受刑者を謹慎させ、精神的孤立の苦痛により改悛を促すことを目的とするものであるから、その目的を全うするため罰室外に出る行動を伴う接見は当然に禁止されることになり、徳島刑務所においても、軽屏禁の懲罰執行中の者に対する接見は原則として禁止している。しかし、この接見禁止によって、受刑者に重大な不利益を与える場合も考えられることから、刑務所長の裁量によって、右軽屏禁の目的を没却しない範囲内において、緊急性、必要性が認められる場合に限り、特別に接見を許可しているのである。そこで、黒岩保安課長が、原告木下弁護士に対し、右面会許可申請書の記載では懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性が認められない旨連絡したところ、原告木下弁護士から、暴行事件訴訟において懲罰に関し請求原因の追加をしなければならないが、懲罰の内容については原告甲野の話を直接聞く必要がある、この件は原告金子弁護士が主に手掛けているので、原告戸田弁護士は結構だから同金子弁護士と自分の二人で接見したいとの申し入れがあったので、徳島刑務所長は、懲罰執行中に特に接見を許可すべき緊急性、必要性が認められるものとして両弁護士の接見を許可したにすぎず、決して原告戸田弁護士の接見を拒否したものではない。

(四) ⑩について

津川弁護士の面会許可申請書には、暴行事件訴訟及び本件(平成三年(ワ)第二六四号)の在監経過等事実調査打合せのためという記載があるのみで具体性がなく、当時、原告甲野は軽屏禁・文書図画閲読禁止の懲罰執行中であったため、黒岩保安課長は、懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性が認められない旨を原告弁護士らと原告甲野との接見に関する折衝窓口であった原告木下弁護士に連絡したところ、接見予定日前日、津川弁護士から面会申請補充書が提出された。しかし、それには前記事件の次回期日の準備のためには、ぜひとも現時点での面接が必要であるとしか記載されておらず、なお緊急性、必要性についての具体的疎明がなかったので、黒岩保安課長は、原告木下弁護士を通じ、津川弁護士に対し、このままでは接見を許可できないと再度疎明の補充を求めたが、何らの疎明もなされなかった。津川弁護士は、翌日午前九時四五分ころ、徳島刑務所を訪れ、黒岩保安課長との面会を求めたが、受付係が保安課に問い合わせ、黒岩保安課長が会議中であること、昨日の文面では面会できないことを伝えたところ、今度は徳島刑務所長との面会を求めたが、所長も会議中である旨伝えると帰ったものであり、当日も接見を許可する緊急性、必要性の疎明はなされなかった。

(五)(1) ⑪について

当日、津川弁護士が原告甲野との接見のため徳島刑務所に到着したので、看守長らが原告甲野を面会室まで連行し、椅子に座らせようとしたところ、原告甲野は、腹、腰及び両足に力を入れて突っ張り、身体を反るようにして、腹が痛くて座れないと言い張り、床に横になったままで面会すると言い出した。右状況の報告を受けた徳島刑務所長は、原告甲野がこれまでの接見時には椅子に座っていたことから、故意に椅子に座らないことが明らかであると判断して接見を中止することとし、黒岩保安課長が津川弁護士に事情を説明のうえ、接見を中止する旨告げた。

(2) ⑫について

当日、原告木下弁護士が原告甲野との接見のため徳島刑務所に到着したので、看守長らが、接見の主旨等を言い渡す必要から原告甲野を保安課へ連行する途中、⑪を含む二回の接見がいずれも椅子に座ろうとしなかったため実施できなかったことから、今日は椅子に座って面会する意思があるかどうかを確認したところ、原告甲野は、手足が痺れて椅子には座れない、床に横になったままで面会させてほしいと言い張り、椅子に座ることができるにもかかわらず座らないのであれば面会させることはできないがそれでもいいかという問い掛けに対し、仕方がないと頑強に椅子に座って接見することを拒んだ。右状況の報告を受けた徳島刑務所長は、前二回の接見中止の経緯を踏まえると、原告甲野が故意に椅子に座らないことが明らかであったので、椅子に座って接見する意思がないものと判断して接見を中止することとし、黒岩保安課長が原告木下弁護士に事情を説明のうえ、接見を中止する旨告げた。

(3) ⑬について

当日、津川弁護士が原告甲野との接見のため徳島刑務所に到着したので、黒岩保安課長は、津川弁護士に対し、原告甲野は椅子に座ることができるにもかかわらず座れないと言い張っており、今回の面会に応ずるかどうか分からない旨、しかし、このままでは裁判に支障が生ずることも考えられるので、面会室の床にゴザを敷き、その上に胡座を組ませて職員が身体を支える方法で接見させる予定であるが、原告甲野がこれに応ずるかどうか分からない旨をそれぞれ説明した。それから、黒岩保安課長は、原告甲野に対し、椅子に座って面会するよう、椅子に座れないというのであれば、ゴザの上に胡座を組んで面会するよう指導したが、原告甲野は、いずれもできない、これ以上話しても時間が経つばかりで弁護士にも迷惑をかけることになるので面会を断ってほしいと申し出た。そこで、黒岩保安課長は、右事情を津川弁護士に説明したところ、同弁護士もこれを了解した。

(4) ⑭について

当日、原告戸田弁護士及び同金子弁護士が原告甲野との接見のため徳島刑務所を訪れたので、黒岩保安課長は、原告甲野に対し、椅子に座って面会するよう、椅子に座れないというのであれば、ゴザの上に胡座を組んで面会するよう指導したが、原告甲野は、いずれもできない、面会できなくてもやむを得ないと接見を辞退した。そこで、黒岩保安課長は、右事情を原告戸田弁護士及び同金子弁護士に説明したところ、同弁護士らもこれを了解した。

(5) 徳島刑務所では在監者を椅子に座らせて接見を実施しており、この接見方法は一般的・常識的な取扱であって、身体的な異常や疾病により椅子に座れない者はともかく、身体の状況につき専門家である医師の診断により異常が認められない者までが椅子に座らず、床に横たわったままで接見することが許されないのは当然である。原告甲野は、大阪拘置所在監時から腰痛があるとか、自力で歩行できないなどと訴え、徳島刑務所移監後も、これに加えて正常な姿勢で座れないなどと訴えていたが、大阪拘置所及び徳島刑務所における診察及び各種検査によっても、その健康状態には格別の異常は認められなかったし、平成三年七月に実施した外部専門医による検査においても、原告甲野が訴える「立てない、歩けない、座れない」という機能障害を示す所見は認められなかった。それにもかかわらず、原告甲野は、居房内において自力歩行はもとより、座姿勢もとらず、常時床に寝ころび、同一不良姿勢を長期にわたり継続させ、手足に痺れ感があるなどの訴えを続けてきたので、徳島刑務所長は、医師の助言を得て、原告甲野の健康管理上の必要から、座姿勢の確保に必要な措置を積極的に行うこととし、平成三年一一月二九日から、一日五回、居房内において、床に胡座を組んで座らせ、上体を壁に付けて垂直位に保持する姿勢をとらせるための措置を開始したところ、日を増すごとにただしい座姿勢をスムーズに採るようになった。

二 接見妨害の違法性

1 原告の主張

(一) 市民的及び政治的権利に関する国際規約と受刑者の接見交通権

昭和五三年九月二一日に発効した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「B規約」という。)一四条一項は、「すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。」と定め、その中で民事上の権利義務をめぐる争いについての決定のため裁判を受ける権利を保障している。B規約の解釈にあたっては、国連被拘禁者保護原則やヨーロッパ人権条約六条の解釈が参考にされなければならないが、同原則一八条は、一項で受刑者に対し接見交通権を保障し、二項で弁護士と協議するための十分な時間及び便益の保障、四項で刑務官による接見立会いの禁止を定めており、また、ヨーロッパ人権条約六条はB規約一四条と同様の規定であるところ、その中には受刑者の接見交通権が黙示的に含まれており、受刑者は民事訴訟を提起するために弁護士と接見する権利を有するとともに、その接見に刑務官が立会うことは同条に違反するとされているのである。したがって、B規約一四条一項においても、受刑者と弁護士との十分な時間の、かつ、刑務官の立会いなしの接見が保障されていると解すべきである。そして、憲法九八条二項は、わが国の締結した条約が一般の法律に優位する効力を有することを認めているのであるから、接見に関する監獄法の解釈はB規約第一四条一項に則ってなされなければならない。

(二) 裁判を受ける権利及び弁護士の弁護権

(1) 受刑者といえども基本的人権の享有主体であり、行刑目的達成上必要最小限の制約が許されるにすぎないから、受刑者に対しても憲法三二条の裁判を受ける権利が保障される。この権利は、民事事件においては、形式的な訴権が認められることに加えて、当事者となった者が法律上意味のある主張立証を尽くしたうえで裁判所の判断を仰ぐという構造であってこそ裁判たる実質を有するものであるから、法律上意味のある主張立証を尽くすことができるということをも保障しているものと考えるべきである。そして、自らの生の主張を法律的に意味のある主張に再構成し、これを踏まえて適切な立証を尽くすためには、法律的知識を有する専門家としての弁護士を訴訟代理人として選任し、自らの主張するところを十分に伝達し意思疎通を図ることが必要であること、受刑者にとっては自らの訴訟代理人たる弁護士と意思疎通を図る手段は接見しかないことを併せ考えると、受刑者が当該弁護士と接見する権利も、裁判を受ける権利と密接不可分の権利として憲法三二条によって保障されているというべきである。したがって、受刑者と民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見に対する制約は一般の接見制限以上に重大な人権制限と考えなければならず、接見への刑務所職員の立会いや時間制限が合憲たり得るためには実質的合理性のある根拠が存在しなければならない。しかも、本件において、暴行事件訴訟の準備のための原告甲野と原告弁護士らとの接見に刑務所職員の立会いを義務付けることは、被告側に一方的な情報収集の機会を与え、被告側は原告らの攻撃防御方法及び証拠等を事前に察知しこれに即応することが可能となり、原告らがこれを回避しようとすれば、訴訟において最も重要と考えられる事項については接見時に触れられないか、十分な説明ができなくなり、その意思疎通は極めて不十分なものとならざるを得ないから、通常の民事訴訟の場合以上に秘密接見交通権が保障されなければならない。また、接見時間の制限も、これが直接原告らの打合せ、訴訟追行を制限することとなり、暴行事件訴訟において、被告側が圧倒的優位に立ち得ることになることを考えると、原告らが主張立証につき十分な意思疎通を行えるだけの時間が必要となる。

(2) 裁判を受ける権利が実質的に弁護士を不可欠の存在として予定している以上、受刑者が権利の救済を求めて弁護士に接見しようとしている場合、この接見に制限を加えることは、弁護士の訴訟活動を不十分なものとし、弁護士法一条が規定する弁護士の使命、義務の遂行が困難となるから、弁護士の弁護権をも侵害する。

(三) 監獄法及び同法施行規則の解釈並びに結論

(1) 以上のとおり、受刑者の接見に関する監獄法四五条一項「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」及び二項「受刑者……ニハ其親族ニ非サル者ト接見ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス」の解釈も、B規約一四条一項及び憲法三二条に則ってなされなければならないところ、徳島刑務所長による⑦、⑨(原告戸田弁護士)及び⑩ないし⑭の各接見拒否は、何ら合理的理由のないものであって違法である。

(二) 次に、監獄法五〇条は「接見ノ立会……其他接見……ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」として接見に関する制限を命令に委任しており、これを受けた同法施行規則一二七条一項は「接見ニハ監獄官吏之ニ立会フ可シ但刑事被告人ト弁護士トノ接見ハ此限ニ在ラス」と、同一二一条は「接見ノ時間ハ三十分以内トス但弁護人トノ接見ハ此限ニ在ラス」とそれぞれ規定しているが、右規則の解釈も、B規約一四条一項及び憲法三二条に則ってなされなければならない。そうすると、右規則一二七条一項及び一二一条は、少なくとも本件に適用される限度において、B規約第一四条一項、憲法三二条に反するものであり、法律の委任の範囲をはるかに超えて権利を制限するものであって無効である。このような無効な規則に基づいて、徳島刑務所長が①ないし⑥、⑧及び⑨(原告木下弁護士及び同金子弁護士)の各接見に刑務所職員の立会いと三〇分以内という条件を付し、右条件のもとに接見させたことは違法である。

また、法令については、条約や憲法に抵触しないように限定的に解釈すべきであるとすれば、暴行事件訴訟において徳島刑務所と相対立する立場にある原告甲野は刑事事件の未決拘禁者と同様の立場にあると解するのがB規約一四条一項、憲法三二条の監獄法及び同法施行規則への適用の結果というべきであり、したがって、規則一二一条、一二七条一項の「弁護人」には民事事件の訴訟代理人たる弁護士も含まれると解すべきであるから、徳島刑務所長は、規則一二一条、一二七条一項の解釈を誤って前記各接見に制限を加えたものであって違法である。仮に、文言上、そのような解釈ができないとしても、規則一二七条三項、一二四条は、刑務所長が必要と認めたときは接見に立会いを付さないこと、三〇分という時間制限をしないことができると定めており、B規約第一四条一項、憲法三二条を考慮するならば、右例外的措置を採るべきであったものであり、徳島刑務所長はこの裁量権を濫用して前記各接見に制限を加えたものであって違法である。

2 被告の主張

(一) B規約と受刑者の接見交通権

B規約一四条一項が、民事上の権利義務をめぐる争いについての決定のため、裁判を受ける権利を保障していることは原告らの主張するとおりであるが、これがただちに受刑者と民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見につき、刑務所職員の立会いを排除した十分な時間の接見を保障しているとはいえない。

(二) 裁判を受ける権利及び弁護士の弁護権

(1) 憲法三二条の定める裁判を受ける権利は、民事・行政裁判にあっては、自ら裁判所へ訴えを提起する自由を有することを保障し、裁判所は適式な訴えの提起に対して裁判を拒絶することは許されないとする、司法拒絶の禁止を意味するものである。もとより、受刑者が民事事件の訴訟代理人と直接面談して打ち合わせる自由も、広い意味では憲法一三条の保障する自由に属すると解することはできるが、それは絶対無制約のものではない。受刑者においては、拘禁に伴い、身体的自由のみならず、それ以外の自由についても法令に基づき必要かつ合理的な範囲で制限を受けることは当然であり、民事事件の訴訟代理人との打合せのための面談は、監獄法令に定める接見という形態でのみ許容されるのであって、その限度で右自由が制約されることになるが、これは憲法の許容するところである。

(三) 監獄法及び同法施行規則の解釈並びに結論

(1) 懲役刑は受刑者を一定の場所に拘禁して社会から隔離し、その自由を剥奪し、これに定役を課すことにより犯罪に対する応報を遂げ、もって社会正義を実現するとともに一般社会を防衛し、かつ、受刑者の改善更生を図ることを目的とするものであるから、受刑者は、右目的を達成するために要請される必要な範囲内で、身体的自由等に一定の制限を受けることを免れない。また、行刑施設は、これらの受刑者を多数拘禁し、集団として管理する施設であって、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的を達成するためにも、受刑者は身体的自由等に一定の制限を受けることを免れない。監獄法四五条二項は、受刑者との接見は原則的には親族に限定し、刑務所長が特に必要があると認めた場合には親族以外の者との接見を許可することができるものとしているが、これは、右懲役刑の目的から、受刑者と親族以外の者との接見は原則として禁止され、行刑目的を達成するために支障がなく、かつ、刑務所の保安、規律維持その他管理運営上の観点からも支障がない場合に、初めて個別的に右禁止が解除されるにすぎないとしているものであって、受刑者と親族でない者との接見については、その許否を刑務所長の裁量に委ねているのである。このことは民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見についても例外ではなく、弁護士であるとの理由のみから直ちにこれを許可することはできない。そして、監獄法四五条二項ただし書の文言に鑑みれば、刑務所長の接見許否の判断については広範な裁量権が認められているというべきであり、このような場合、その裁量判断が合理的範囲にある限り、当不当の問題を生じることはあっても、国家賠償法上違法の問題を生じる余地はないというべきである。また、裁判所が刑務所長の措置の違法の成否を判断するにあたっては、刑務所長と同一の立場にたってどのような措置をすべきであったかを判断し、その結果と刑務所長が現に採った措置とを比較してこれを論ずべきものではなく、刑務所長の行った基礎たる事実関係の認定に合理的根拠があり、それに基づく判断に合理性が認められる限り、裁量権の逸脱ないし濫用による国家賠償法上の違法があるとの評価を下すべきではない。しかるところ、徳島刑務所長が⑦、⑨(原告戸田弁護士)及び⑩ないし⑭の各接見を不許可あるいは中止としたのは、前記一2(二)ないし(五)の理由によるものであって、いずれも合理的な根拠があり、その判断が全く事実の基礎を欠き、または社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえないから、裁量権の逸脱あるいは濫用があったとはいえず違法ではない。

(2) 監獄法施行規則一二七条一項は、被収容者との接見には、刑事被告人と弁護人との接見を除き、監獄官吏が立ち会うものとしているが、これは、被収容者の逃走、不法な物品の授受、その他の事故を防止するための戒護上の措置及び接見を行政処遇上の参考に資するためである。文言上、右規則中の「弁護人」に民事事件の訴訟代理人たる弁護士が含まれないことは明らかであり、かかる弁護士との接見においても刑務所職員を立ち会わせなければならない。なお、規則一二七条三項は、「所長ニ於テ教化上其他必要アリト認ムルトキハ受刑者ノ接見ニ付立会ヲ為サシメサルコトヲ得」と規定するが、「教化上其他必要アリト認ムルトキ」とは、消極的に戒護上立会いの必要が認められず、かつ、積極的に教化上その他立会い省略の必要性が認められる場合をいい、この場合にのみ刑務所職員の立会いを省略することができるが、右規定の趣旨に鑑みれば、「其他必要アリト認ムルトキ」に当たる事情とは、受刑者の教化に準ずる性質のものを指すと解すべきであり、受刑者と民事事件の訴訟代理人との接見がこれに含まれないことは明らかであるから、刑務所長に裁量の余地はなかったものである。したがって、徳島刑務所長が①ないし⑥、⑧及び⑨(原告木下弁護士及び同金子弁護士)の各接見に刑務所職員を立ち会わせたことは監獄法及び同法施行規則に基づくものであって、なんら違法・不当な点はない。

また、監獄法施行規則一二一条は、被収容者との接見時間を、刑事被告人と弁護人との接見である場合を除き、三〇分以内としているが、文言上、右規則中の「弁護人」に民事事件の訴訟代理人たる弁護士が含まれないことは前同様である。ところで、規則一二四条(平成三年八月七日法務省令第二二号による改正前のもの)は、「所長ニ於テ処遇上其他必要アリト認ムルトキハ前四条ノ制限ニ依ラサルコトヲ得」と規定し、所長の裁量によって接見時間について三〇分を超えることができるとしているが、これは、監獄内の事情に通暁し直接接見許否の衝に当たる刑務所長による、個々の場合の具体的状況のもとにおける判断にまつべきであるから、裁量権の範囲は広いというべきである。そして、徳島刑務所長が本件各接見について三〇分以内という条件を付したのは、(A)原告甲野と原告弁護士らとの打合せは接見以外にも信書によって十分に行い得ること、(B)原告甲野は懲役受刑者であって定役に服すべき者であるところ、原告らの主張するように長時間の接見を頻繁に認めた場合には、懲役刑の趣旨を実質的に失わせることにもなりかねないこと、(C)原告甲野にのみ長時間の接見を認めれば他の受刑者との処遇の公平性を欠くことになるし、これを避けようとすれば民事訴訟を提起した他の受刑者についても同様に長時間の接見を認めざるを得なくなり、ひいては徳島刑務所の接見業務に著しい支障をきたすことになること、(D)原告甲野と原告弁護士らとの接見については、原則として月二回を限度として特別許可し、さらに緊急性、必要性があると認められる場合にはこれを超える接見を許可していることから、三〇分以内の接見であっても十分に双方の意思疎通が可能であると判断したからであって、合理的な根拠があるというべきであるし、その判断が全く事実の基礎を欠き、または社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえないから、ここに裁量権の逸脱ないし濫用があったといえない。

三 徳島刑務所長の故意・過失等

1 原告らの主張

(一) 原告らは、本件接見妨害により、暴行事件訴訟についての打合せが十分にはできず主張立証が困難な状況となり、その間、原告弁護士らは、徳島刑務所に対し、本件接見妨害の違法性を主張し、刑務所職員の立会い及び時間制限のない接見を要求するとともに、平成三年一月三〇日、暴行事件訴訟第二回口頭弁論期日において、原告甲野との打合せが不十分で訴訟進行ができない事情を述べ、裁判所が被告国側に対し検討を促したことがあった。さらに、平成三年五月二九日、原告弁護士らは、徳島刑務所長に対し、接見についての話し合いを申し入れたが、「接見制限の理由は代わらない。もし無条件というのであれば接見を許可しない。」との理由で話し合いを拒否された。したがって、徳島刑務所長は、十分に違法性を認識しながら、あえて本件接見妨害をしたものであって、故意少なくとも過失がある。

(二) 法務大臣は、規則の改廃または規則の不適用の範囲を自ら通達できる権限があるのであるから、監獄法施行規則一二七条一項及び一二一条の違法につきこれを予見し、原告甲野と原告弁護士らとの本件各接見時までに、右規則を改廃し、あるいはその不適用を通達すべきであったにもかかわらず、これを放置し、徳島刑務所長をして本件各接見の妨害行為をなさしめた。

2 被告の主張

徳島刑務所長は、本件接見については、監獄法令に忠実に従って所要の措置を採ったものであり、裁量権の範囲を超え、あるいはこれを濫用したものではないから、故意はもとより過失もない。

四 損害

1 原告らの主張

原告らは、徳島刑務所長の違法な接見制限により、暴行事件訴訟の打合せ、ひいては訴訟追行にも多大な悪影響を受けたが、これは原告甲野の損害賠償請求権の行使を著しく妨害し、ひいては裁判を受ける権利の行使を困難にさせるものであり、また、原告弁護士らの弁護権を侵害するものであるから、その精神的苦痛を慰謝するには、接見拒否については、一回につきそれぞれ二〇万円、刑務所職員の立会いと時間制限を付した接見制限については一回につきそれぞれ一〇万円が相当である。

2 被告の主張

原告らの主張は知らない。

(争点に対する判断)

一 B規約一四条一項、憲法三二条並びに監獄法及び同法施行規則の解釈について

本件では、B規約一四条一項、憲法三二条の解釈並びにこれに則った監獄法、同法施行規則の解釈及びその有効、無効が問題となっているので、まず、この点について検討を加えることとする。

1 B規約一四条一項と受刑者の接見交通権について

憲法九八条二項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定するが、これは、わが国において、条約は批准・公布によりそのまま国法の一形式として受け入れられ、特段の立法措置を待つまでもなく国内法関係に適用され、かつ、条約が一般の法律に優位する効力を有することを定めているものと解される。もっとも、わが国が締結した条約の全てが右の効力を有するものではなく、その条約が抽象的・一般的な原則あるいは政治的な義務の宣言にとどまるものであるような場合は、それを具体化する立法措置が当然に必要となる。ところで、B規約は、自由権的な基本権を内容とし、当該権利が人類社会のすべての構成員によって享受されるべきであるとの考え方に立脚し、個人を主体として当該権利が保障されるという規定形式を採用しているものであり、このような自由権規定としての性格と規定形式からすれば、これが抽象的・一般的な原則等の宣言にとどまるものとは解されず、したがって、国内法としての直接的効力、しかも法律に優位する効力を有するものというべきである。

では、B規約一四条一項が保障する民事上の権利義務をめぐる争いについての決定のため裁判を受ける権利は、その内実としていかなる権利を包含するものであろうか。条約の解釈については、昭和五六年八月一日発効の条約法に関するウィーン条約が存するところ、同条約は遡及効を持たないためそれ以前に発効していたB規約の解釈に直接の適用はないが、それが国際慣習法として形成適用されてきた条約法の諸原則を成文化したものであることを考えると、B規約の解釈に際しても一定の指針となり得るものというべきである。条約法に関するウィーン条約は、第三節において、条約の解釈に関する国際法上のルールを定めているが、その三一条は、条約の解釈に関する一般的な規則として、1項において、条約は文脈により解釈されなければならないと規定し、3項において、文脈とともに、(A)条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意、(B)条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、(C)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則をも解釈の際に考慮しなければならないと定めている。しかるところ、B規約草案を参考にして作成されたヨーロッパ人権条約がB規約一四条一項に相当する六条一項で保障している公正な裁判を受ける権利は、受刑者が民事裁判を起こすために弁護士と面接する権利をも含むものと解されており、ヨーロッパ人権裁判所において、右面接に刑務官は立ち会うことができないとの判断が下されており、これは右(C)(当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則)として、ヨーロッパ人権条約の加盟国がB規約加盟国の一部にすぎないなどの限界を有し、直ちにB規約一四条一項においても全く同一の解釈が妥当するとまでは断定できないとしても、B規約一四条一項の解釈に際して一定の比重を有することは認められよう。また、一九八八年一二月九日、国連第四三回総会決議で採択された「あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則」は、その原則18において、1項で拘禁または収監された者が自己の弁護士と交通し相談する権利を有すること、2項で拘禁または収監された者が自己の弁護士と相談するために充分な時間と便益を与えられなければならないこと、4項で拘禁または収監された者とその弁護士との接見は、法執行官によって監視されてもよいが、聞かれてはならないことを定めているところ、これが被拘禁者保護の国際的な基準として作成されたものであることを考えると、B規約一四条一項の解釈に全く影響を持たないとまではいえないかもしれないが、法規範性を有するものではないことからすると、右(B)(条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの)に該当するといい得るかについてはなお疑問がある。以上を勘案すると、B規約一四条一項は、そのコロラリーとして受刑者が民事事件の訴訟代理人たる弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり、接見時間及び刑務官立会いの許否についてはなお一義的に明確とはいえないにしても、当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないというべきである。したがって、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項も右B規約一四条一項の趣旨に則って解釈されなければならないし、法及び規則の条項が右B規約一四条一項の趣旨に反する場合、当該部分は無効といわなければならない。

2 裁判を受ける権利と弁護士の弁護権について

原告らは、本件各接見制限が原告甲野の裁判を受ける権利を侵害するものであるというが、なるほど受刑者に対しても憲法三二条の裁判を受ける権利の保障は及ぶものの、同権利は、民事・行政事件にあっては、すべての者が公平な裁判所の裁判を求める権利を有し、裁判所は適式な訴えの提起に対して裁判を拒絶したり怠ったりすることは許されないとする、いわゆる司法拒絶の禁止を意味するものであって、受刑者が民事事件の訴訟代理人と直接面談して打ち合わせ、その際刑務所職員の立会いを排除して打合せ内容の秘密を確保することまでを直接に保障したものとは解されない。しかし、受刑者であるとの一事をもって当然に憲法上の権利・自由の制約が許されるものではなく、懲役刑においては、受刑者を一定の場所に拘禁して社会から隔離し、その自由を剥奪し、これに定役を課すことにより犯罪に対する応報を遂げることを目的の一つとするものであるから、身体的自由が束縛されることは当然としても、それ以外の権利・自由に対しては、懲役刑のもう一つの目的である受刑者の改善更生を図る処遇をすることと、行刑施設が受刑者を多数拘禁し集団として管理する施設であって内部における規律秩序を維持しなければならないという二つの要請から必要とされる場合に、その目的を達成するために合理的な範囲内で制約を加えることが許容されるにすぎない。そして、憲法上受刑者に対しては外部交通権としての接見の権利が保障されているものと解されるが、外部交通権が受刑者の更生にとって極めて重要な意義を有するものであることを考えると、接見に対する制限においては、処遇上及び刑務所内の規律秩序維持上の必要があるか否か、その制約が合理的な範囲内にあるか否かの判断については一定の厳格さが要求されるというべきである。なお、原告らは、受刑者にとって、民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見は意思疎通を図る唯一の手段であり、これに対する制約は一般の接見制限以上に重大な人権制限と考えなければならないというが、これはむしろ、民事事件の相談、打合せという性質上、親族等との接見よりも長時間を要することが多く、それだけに接見時間や回数に対する制限が接見の権利に対する強度の侵害となりやすいということを指摘するにすぎないものと考える。また、受刑者が権利の救済を求め弁護士に接見しようとしている場合、接見に制限を加えることは、弁護士の訴訟活動を不十分ならしめ、弁護士法一条が規定する弁護士の使命、義務の遂行が困難となるから、弁護士の弁護権ともいうべき権利をも侵害するものといい得る。したがって、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項も、憲法上保障された受刑者の接見の権利及び弁護士の弁護権を侵害するものであってはならない。

3 監獄法及び同法施行規則の解釈について

(一) 以上のとおり、受刑者と弁護士との接見に関する監獄法及び同法施行規則の解釈も、受刑者の接見の権利を保障するB規約一四条一項及び憲法の趣旨に則ってなされなければならない。したがって、監獄法四五条一項、二項は、受刑者との接見は原則的には親族に限定し、刑務所長が特に必要があると認めた場合には、親族以外の者との接見を許可することができると規定し、受刑者と親族でない者との接見については刑務所長の裁量に委ねた形になっているが、B規約一四条一項及び憲法の趣旨並びに接見の権利の重要性に鑑みると、これが全くの自由裁量であると解することはできず、前記のとおり、接見に対する制限においては、処遇上及び刑務所内の規律秩序維持上の必要があるか否か、その制約が合理的な範囲内にあるか否かの判断については一定の厳格さが要求されるのであって、刑務所内の管理、保安の状況その他具体的事情のもとにおいて、当該接見を許すことにより、受刑者に教化上好ましくない影響を与えたり、刑務所内の規律秩序の維持上放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合を除いて、本件のように民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見は原則として許可すべきであり、特段の事情がないのに接見を拒否することは、裁量権の範囲を逸脱し違法となると解すべきである。

(二) 次に、原告らが無効であると主張する監獄法施行規則一二一条「接見ノ時間ハ三十分以内トス但弁護人トノ接見ハ此限ニ在ラス」及び同規則一二七条一項「接見ニハ監獄官吏之ニ立会フ可シ但刑事被告人ト弁護人トノ接見ハ此限ニ在ラス」について検討するに、文言上、右規則中の「弁護人」は刑事被告人の弁護人を指すものと解されており、これに民事事件の訴訟代理人たる弁護士を含むものと解することはできないが、前記のとおり、B規約一四条一項の定める裁判を受ける権利及び憲法上認められる受刑者の接見の権利が接見時間及び刑務官立会いの許否についてはなお一義的に明確とはいえないこと、監獄法施行規則一二四条及び一二七条三項が、刑務所長が必要と認めたときは三〇分という時間制限を付さないこと、接見に立会いを付さないことができると定めていることからすると、右規則一二一条、一二七条一項が直ちにB規約一四条一項等に反して無効であるとまではいい難い。ただし、B規約一四条一項等の趣旨に鑑みると、受刑者と民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見に対し、当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないというべきであり、刑務所長としては事案に応じて規則一二七条三項、一二四条の定める制限緩和の措置を採るべきであり、この点についても全くの自由裁量と解することはできない。

二 接見制限の有無及び態様とその違法性について

1 ①ないし⑥、⑧並びに⑨(原告木下弁護士及び同金子弁護士)の各接見における時間制限及び刑務所職員の立会いについて

(一) 証拠(甲10の1ないし9、証人黒岩、同津川、原告木下本人)によれば、以下の事実が認められる。平成二年四月、原告甲野が徳島刑務所に移監されてから、同年五月一七日及び同年七月一七日に原告木下弁護士らが原告甲野と接見した後、同年七月二四日、原告木下弁護士らが、和歌山地方裁判所係属中の民事事件の原告甲野本人尋問等の準備のために徳島刑務所を訪れた際、同刑務所管理部長及び黒岩保安課長から、原告甲野との接見は原則として月二回、時間は三〇分以内でやってほしいと要望されたが、原告木下弁護士らは、三〇分という接見時間では事件の打合せが何もできないとして時間についての配慮を強く求め、結局双方が合意に達することはなかった。その後も、本件①の接見までに五回の接見がなされたが、その間、原告弁護士らは接見時間についての配慮を何度も徳島刑務所側に求め、同年一〇月二日付け及び同月八日付け面会許可申請書にはいずれも一時間三〇分の接見時間を求める旨記載した。平成三年一月九日、黒岩保安課長は、③の接見のために徳島刑務所を訪れた津川弁護士及び木村弁護士に対し、面会許可申請書に接見時間六〇分と刑務所職員の無立会いを求める記載があるので接見を許可できない、時間は三〇分以内、刑務所職員の立会いを了解したということでないと接見は認められないと申し渡した。さらに、平成三年三月頃、黒岩保安課長から、原告木下弁護士に対し、今後面会許可申請書に三〇分を超える接見時間と立会人なしという要望は記載しないでほしい、記載した場合はそれだけで接見を許可しないとの連絡があった。

右認定の事実によれば、原告弁護士らは、⑤以下の面会許可申請書において、刑務所職員の立会いなしの三〇分を超える時間の接見を求める旨記載していないが、これは徳島刑務所側から、面会許可申請書に三〇分を超える接見時間と立会人なしという要望を記載した場合はそれだけで接見を許可しないと言われたからであって、①ないし⑥、⑧並びに⑨(原告木下弁護士及び同金子弁護士)のいずれの接見についても、原告弁護士らは刑務所職員の立会いなしの三〇分を超える時間の接見を希望したが、徳島刑務所長は、時間を三〇分以内とし、かつ、刑務所職員の立会いを義務付けたものと認められる。

(二) そこで、徳島刑務所長が接見時間を三〇分以内とする条件を付して接見を許可したことが違法かどうかについて検討する。被告は、徳島刑務所長が接見時間を三〇分以内とする条件を付したのは、(A)原告甲野と原告弁護士らとの打合せは接見以外にも信書によって十分に行い得ること、(B)原告甲野は懲役受刑者であって定役に服すべき者であるところ、原告らの主張するように長時間の接見を頻繁に認めた場合には、懲役刑の趣旨を実質的に失わせることにもなりかねないこと、(C)原告甲野にのみ長時間の接見を認めれば他の受刑者との処遇の公平性を欠くことになるし、これを避けようとすれば民事訴訟を提起した他の受刑者についても同様に長時間の接見を認めざるを得なくなり、ひいては徳島刑務所の接見業務に著しい支障を来すことになること、(D)原告甲野と原告弁護士らとの接見については、原則として月二回を限度として特別許可し、さらに緊急性、必要性があると認められる場合にはこれを超える接見を許可していることから、三〇分以内の接見であっても十分に双方の意思疎通が可能であると判断したからであるという。しかしながら、(A)については、暴行事件訴訟が約三か月に及ぶ刑務所職員の暴行等を理由とするものであり、その全期間にわたる詳細な事実関係の調査が必要であるうえ、民事事件についての打合せという性格を考えると、原告甲野と原告弁護士らとが対面し、直接言葉を交わして細かな事実等の確認をし、それに基づいてさらに質問、回答するという手順が不可欠と考えられ、信書のやり取りでは大きな限界があるといえるし、(B)についても、仮に一時間三〇分の接見を月二回実施したとしても計三時間にすぎず、これで刑務作業に支障を来し、懲役刑の本旨に反する結果になるともいえない。(C)については、なるほど黒岩保安課長及び徳島刑務所長平井紳介(以下「平井所長」という。)の各証言によれば、徳島刑務所に面会室は六室あるが、接見担当の職員は三名しかおらず、このうち立会係は二名であって一人当たり一日八、九件を受持ち、これを午前八時半から一二時、午後一時から四時半までの面会時間内に行わなければならず、かなり忙しい状態であることは窺われる。しかし、そもそも刑務所職員の繁忙を理由として接見時間を制限することは本末転倒であるといわなければならないし、黒岩証言によっても、原告甲野に対し三〇分以上の接見を認めることによって接見業務に特段の支障が生ずるおそれがあったとは認め難い。黒岩証人は、当時徳島刑務所に収容されていた者で、訴訟代理人として弁護士を依頼し民事事件を起こしている者が三、四名いたと言うが、これらの者が同様に三〇分を超える時間の接見を求めるとは限らないし、求めた場合に接見業務にいかなる影響を及ぼしたかはなお測り難く、仮に影響が出たとしても、そのときに対応すれば足りることといい得る。また、(D)については、原告甲野は暴行事件訴訟以外にも再審、複数件の一般民事事件、大阪地方裁判所係属の国家賠償請求事件をかかえ、ほとんどの面会許可申請書においてこれらの事件を含めて接見理由としていたことを考えると、原則月二回の接見が認められるといっても、一回三〇分では計一時間にすぎず、とうてい十分な接見時間とはいい難いし、原告戸田弁護士、同木下弁護士及び同金子弁護士は大阪から来所していること、徳島在住の弁護士であっても行き来の時間を取られることに対する配慮も必要である。そして、甲20の1、2ないし30の1、2によれば、原告弁護士らが再審事件を担当した弁護士に対しアンケートを取ったところ、回答のあった九件において、再審開始決定がなされたか否かにかかわらず、接見時間の制限はなかったとの結果を得ていることが認められ、本件においても、ほとんどの面会許可申請書で再審をも接見理由としていたことを考えると、同様の措置が採られるべきであったといい得る。また、甲42、43によれば、京都刑務所に服役中の受刑者が、刑務所職員から不当な処分等を受け、多大の精神的苦痛を被ったとして国家賠償等を請求している事件において、当該受刑者とその訴訟代理人たる弁護士との接見につき、職員の立会いはあるものの、やはり接見時間の制限はないことが認められる。平井所長は、この点につき、徳島刑務所はLB級施設であり、犯罪傾向の進んだ長期刑受刑者ばかりを収容しており、施設の事情が違うので規則一二四条を適用することはできないと証言するが、LB級施設であるということが、ただちに三〇分以内の接見時間でなければならないということに繋がるものではないし、B級施設である京都刑務所とで接見についての扱いを異にしなければならないほどの違いがあるといえるかどうかも疑問である。

以上によれば、接見時間の制限が訴訟準備のための打合せに対する直接の制約であり、前記のとおり、刑務所長としては事案に応じて規則一二四条の定める制限緩和の措置を採ることが求められていることからすると、本件において、接見時間を三〇分以内に制限することが、処遇上はもとより、刑務所内の規律秩序維持上の必要があったとも認められず、したがって、徳島刑務所長が本件各接見に三〇分以内という条件を付したことは、その許された裁量権を逸脱ないしは濫用したものといわざるを得ず、違法というべきである。

(三) 次に、徳島刑務所長が刑務所職員の立会いを条件として接見を許可したことが違法かどうかについて検討する。接見に刑務所職員の立会いを必要とする趣旨は、被告主張のとおり、被収容者の逃走、不法な物品の授受、その他の事故を防止するための戒護上の措置及び被収容者の処遇上の参考に資するためであると認められる。戒護という観点からすると、被収容者の逃走、不法な物品の授受についてはともかく、一般論としては接見の相手方が弁護士であるというだけでそれ以外の事故のおそれが全くないとはいえないし、また、処遇上受刑者の動静について空白部分があるのは望ましくなく、接見時に例えば肉親の危篤とか受刑者が精神的に不安定になるような事柄が話されるかもしれないと黒岩証人が述べるように、受刑者の処遇の参考とするために接見時の動静をも把握しておく必要があるといい得る。そして、証拠(甲15、乙7の1ないし3、9、証人平井、同黒岩)によれば、原告甲野は、大阪拘置所在監時から腰痛があるとか、自力で歩行できないなどと訴え、徳島刑務所移監後も、これに加えて正常な姿勢で座れないなどと訴え、居房内において床に寝ころぶような姿勢を長期間にわたって続け、また、たびたび懲罰処分を受け、処遇に対する不満から拒食をするなどしてきたことが認められ、接見時における不測の事故の防止、処遇に資する動静把握のために刑務所職員を立ち会わせる必要性が高かったというべきである。原告らは、接見に刑務所職員の立会いを義務付けることは、暴行事件訴訟に関し、被告側に一方的な情報収集の機会を与えることとなり、被告側は、事前に原告らの攻撃防御方法及び証拠等を事前に察知し、これに即応することが可能になり、原告らがこれを回避しようとすれば、訴訟において最も重要と考えられる事項については接見時に触れられないか、十分な説明ができなくなり、原告甲野と原告代理人らの意思疎通は極めて不十分なものとならざるを得ないと主張するのであるが、なるほど、平成二年八月三日の接見において、刑務所職員の立会いがあったことによって、暴行事件訴訟の訴え提起は説明できたが、これに関する証拠保全については説明できなかったという事実は認められるかもしれないが、これ以外に、本件各接見に対する刑務所職員に立会いによって、心理的圧迫以上に現実に民事事件の打合せが妨げられたことを認めるに足る証拠はなく、刑務所職員の立会いをもって民事裁判の公正が害されるとまではいい難いことからすると、本件において、徳島刑務所長が接見に刑務所職員を立ち会わせた措置は、前記戒護上、処遇上の目的を達成するための合理的範囲内にとどまるものと認められ、これをもって裁量権の逸脱ないし濫用があったとまではいい難い。

2 ⑦について

証拠(甲15、乙7の3、証人平井、同黒岩)によれば、以下の事実が認められる。原告甲野は、平成三年八月六日、保護房に拘禁されたが、処遇に対する不満から同日の昼食より拒食を始め、刑務所職員の再三にわたる指導にもかかわらず保護房拘禁解除後も拒食を続け、同月一二日、徳島刑務所医務課医師が診察したところ全身衰弱が認められ、体重も前回の測定より6.5キログラ減の56.5キログラムであったので、徳島刑務所長は、右医師の指示に基づき、その生命及び健康を維持する必要上、同日から原告甲野に対し随時鼻孔経管強制給養等を実施するとともに、作業を免除し、病者に準ずる処遇を実施することとし、また、接見についてもそのつど医師の意見を参考にして判断することとした。同月一五日、原告甲野の体重は五四キログラムまで減少し、同月一九日は五五キログラムまで回復した。原告弁護士らが原告甲野との接見のため徳島刑務所を訪れた同月二一日、原告甲野は依然として拒食を続け強制給養を受けていたため、黒岩保安課長から面会させてよい状態かどうか相談を受けた杉本医務課長は、原告甲野が拒食中で体力が減退し、体重の減少もあったことから、こういうときは風邪をひくとか少しのことが原因となって重篤な事態になるおそれがあり、リスクは避けるべきであるとの判断により、接見は控えたほうがいいと回答した。徳島刑務所長は、黒岩保安課長から杉本医務課長の回答内容を報告され、原告甲野の接見を許可しないこととした。

右認定の事実によれば、なるほど、原告甲野のカルテでは、平成三年八月一九日から二一日にかけて特段の異常所見がみられず、体重も回復傾向にあったとしても、原告弁護士らが接見に訪れた当日においても、原告甲野が依然として強制的に栄養補給を受けていたことからすれば、なお体力の減退があったものと推測され、原告甲野を直接診ていた杉本医務課長が、抵抗力が弱まった状態で感染症のおそれもあり、後々のことを考えると接見を止めたほうがいいとの判断を下したとしても、これが相当性を欠くものとは認められない。したがってまた、徳島刑務所長が杉本医務課長の右判断に基づいて接見を不許可としたことも、処遇上その必要があり、かつ、合理的判断でもあったと認められ、その裁量権を逸脱あるいは濫用したものとはいえない。また、監獄法施行規則一二六条三項は、疾病のためやむを得ない場合は居所において接見させることができると定めているが、黒岩証言によれば、右規定については一般に危篤状態の病人を想定した運用がなされていることが認められ、してみると、徳島刑務所長がこれによらなかったことをもって、裁量権の逸脱あるいは濫用があったとは認められない。なお、原告らは、平井所長が直接杉本医務課長の意見を聞かなかったこと、原告甲野に弁護士の来所を告げ接見の意思の有無を確認していないことを指摘するが、平井所長の証言によれば、同人は、原告甲野が拒食を始めた当初からほとんど毎日のように杉本医務課長から報告を受け、また、巡回し自らの目で確認することによって原告甲野の状況を把握していたことが認められ、してみると、当日杉本医務課長の意見の報告を受けただけで原告甲野の状態を判断できたと認められるし、接見不許可の理由が右のとおりである以上、原告甲野の接見の意思の有無とは無関係というべきであるから、いずれも右認定に影響を及ぼすものではない。

3 ⑨の原告戸田弁護士の接見拒否について

証拠(証人黒岩、原告木下本人)によれば、以下の事実が認められる。本件面会許可申請書が徳島刑務所に到達した当時、原告甲野は軽屏禁・文書図画閲読禁止の懲罰執行中であったため、黒岩保安課長は、原告木下弁護士に対し、懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性が認められない旨を電話で連絡した。右電話において、原告木下弁護士が、竜なる人物に会っていることを原告甲野に説明したい、暴行事件訴訟において懲罰に関し請求原因の追加をしなければならないが、懲罰の内容については原告甲野の話を直接聞く必要があり、この件は原告金子弁護士が主に手掛けているということを説明したところ、黒岩保安課長より、原告木下弁護士と同金子弁護士の接見は認めるが、特別な担当がない原告戸田弁護士は許可できない旨回答があった。なお、黒岩証人は、原告木下弁護士が、原告戸田弁護士は結構であるから同金子弁護士と二人で接見したい旨申し入れたと証言するが、原告木下本人尋問の結果に照らし信用し難い。

右認定の事実によれば、徳島刑務所長は、原告戸田弁護士の原告甲野との接見を不許可としたものといわざるを得ない。しかしながら、原告甲野はそのとき軽屏禁の懲罰期間中であったものであり、軽屏禁が厳格な隔離によって受刑者を謹慎させ、精神的孤立の苦痛により改悛を促すことを目的とするものであることからすれば、罰室外に出る行動を伴う接見は、軽屏禁の性質上当然にというわけではないが、その目的を没却しないようにするために必要な限度において制約が加えられること自体はやむを得ないものであり、したがって、徳島刑務所長が、原告弁護士らに特別に接見を許可すべき緊急性、必要性の疎明を求めること自体は、それが殊更に接見の機会を奪うような運用とならない限り許されるところであるというべきである。そうすると、徳島刑務所長が、特別に接見を許可すべき緊急性、必要性が認められるとして原告木下弁護士及び同金子弁護士の原告甲野との接見を許可している以上、特別な担当がなかった原告戸田弁護士に接見を許可する緊急性、必要性が認められないとしてこれを不許可にしたことをもって、これが合理性を欠く判断であったとまではいえず、ここに裁量権の逸脱あるいは濫用があったとは認められない。

4 ⑩について

証拠(甲10の31、14の1、乙5、証人津川、同黒岩、原告木下本人)によれば、以下の事実が認められる。津川弁護士の平成三年一二月三日付け面会許可申請書には、暴行事件訴訟及び本件(平成三年(ワ)第二六四号)の在監経過等事実調査打合せのためとの記載があるのみで、当時、原告甲野は軽屏禁・文書図画閲読禁止の懲罰執行中であったことから、黒岩保安課長は、同月五日、懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性が認められない旨を、原告甲野の弁護団事務局であり徳島刑務所との折衝の窓口となっていた原告木下弁護士に連絡した。その結果、津川弁護士から同月五日付け面会申請補充書が提出されたが、それには前記事件の次回期日の準備のためにはぜひとも現時点での面会が必要であるとしか記載されておらず、黒岩保安課長は、再度原告木下弁護士に、懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性が認められないのでこれでは許可できないと伝えた。原告木下弁護士から連絡を受けた津川弁護士は、黒岩保安課長に電話したが、同人が接見に関する折衝の窓口は原告木下弁護士であるとして十分話に応じてくれなかったため、明日徳島刑務所に行ってもう少し詳しく説明するということで電話を終えた。翌日午前九時四五分ころ、津川弁護士は、徳島刑務所に赴き、黒岩保安課長との面会を求めたが会議中で会えない、昨日の文面では接見を許可できない、平井所長も会議中であり午前一一時過ぎくらいまでかかるかもしれないと言われ、結局いずれと会うこともできず、原告甲野との接見がかなわなかった。なお、黒岩保安課長は、前日に津川弁護士からの電話連絡はなかったと証言するが、津川証言及び甲14の1に照らして信用し難い。

右認定の事実によれば、津川弁護士は前日黒岩保安課長に電話しているところ、平井所長及び黒岩保安課長の各証言によれば、懲罰執行中に特に接見を許可する緊急性、必要性の疎明については、電話による口頭での疎明でも後に書面を追完してもらえばよいという運用をしていたというのであるから、黒岩保安課長において翌日の午前中に会議の予定が入っているのであれば、懲罰執行中に特に接見を許可すべき緊急性、必要性の有無をそのときに確認すべきであったというべきである。しかるにこれを怠り、かつ、津川弁護士が明日徳島刑務所に行ってもう少し詳しく説明すると言っているにもかかわらず、明日会議があることを知らせもしなかったことは、実質的に原告らの接見の機会を奪うものであり、接見を不許可とした場合と同視できるものであって、これはとうてい合理的範囲内にとどまる措置とはいえず、接見の許否に関して認められた裁量権を逸脱ないしは濫用したものといわざるを得ず違法である。

5 ⑪ないし⑭について

(一) ⑪については、証拠(甲54の1及び2、証人黒岩、同津川)によれば、以下の事実が認められる。津川弁護士が原告甲野との接見のため徳島刑務所に到着したので、看守長らが原告甲野を面会室まで連行し、椅子に座らせようとしたところ、原告甲野は、全身に力を入れて突っ張り、身体を反るようにして、身体が痛くて椅子には座れない、床に横になったままで面会すると言い張ったため、右状況の報告を受けた平井所長は、原告甲野がこれまでの接見時には椅子に座って面会していたことから、故意に椅子に座らないことが明らかであると判断し、接見を中止することとし、黒岩保安課長が津川弁護士に理由を説明のうえ接見を中止する旨告げた。なお、原告甲野は、本人尋問において、身体が痛くて普通に椅子に座ることはできず、これまでは身体を延ばしたまま椅子に斜めに寄り掛かるようにし、椅子の座る部分には尻を少し引っかけるような形(甲15号証添付番号3の写真の姿勢)で座ってきたが、このときは突然黒岩保安課長に椅子に深く腰を掛けて直角に座るように命じられたと述べている。しかしながら、津川弁護士は、それまでの接見では、原告甲野は椅子の肘掛けに腕を掛けて寄り掛かるようにし、座る所には尻を少し引っ掛けて斜めになるような状態だったが、このときはそういう状態もできないということで、床に横になったまま接見させてくれと言っていたと証言していること、原告甲野が原告金子弁護士及び同戸田弁護士に宛てた手紙(甲34の1、35の1)には、それぞれ「横臥状態しか面会に応じ得ないという理由、事由により面会が許可相い成らず」、「面会場にて椅子(パイプの)か、壁に背を当て座らぬ限り面会を許可しないと云々された」とあるのみで、椅子に直角に座るように命じられたとの記載がないことからすれば、原告甲野の述べるところは信用し難い。

そうすると、原告甲野が身体の痛みによって全く椅子に座れない状態であったか否かが問題となるが、黒岩証言によれば、平成三年一一月二〇日の接見時には原告甲野は椅子に斜めに寄り掛かるような姿勢で接見していたことが認められ、また、原告甲野の述べるところによれば、平成四年六月に大谷弁護士と接見したときは、甲15号証添付番号3の写真の姿勢で椅子に座ることができたという。そして、平成二年一月四日から同年四月二〇日までの大阪拘置所居房内での原告甲野の動静を撮影したビデオテープの検証の結果によれば、自力で立って腰を曲げて洗面したり、ベッドに腰掛け服の着替えを行うなど日常の起居動作に特段の支障はみられず、かつ、腹筋運動、背筋運動等の運動もこなしている。また、杉本医務課長の証人尋問調書等(乙7の1ないし3及び10)によれば、平成三年五月に外部の病院で頭部CT検査、脊椎及び脊髄のMRI検査を実施したところ、脊髄の圧迫所見があったため、同年七月に徳島大学附属病院整形外科で右MRI写真等の読影と、神経学的な検査、四肢の筋電図検査、頚椎、胸椎、腰椎のレントゲン撮影を実施した結果、頚椎、胸椎、腰椎に加齢による変化(経度の椎間板の狭小化、骨棘形成)があり、下位胸椎部で経度の黄色靭帯の骨化と思われる所見が認められるが、神経障害を示唆する所見は検出できず、黄色靭帯の骨化による脊髄の圧迫等が、原告甲野が訴える身体症状の全てを説明するものではなく、むしろ心因性のものであると考えられる旨の意見書が提出された。さらに、香川医科大学乗松尋道教授は、その鑑定書及び証人尋問調書(甲55、66)において、原告甲野を平成五年九月一〇日と同月二八日に診察した結果、胸椎11、12レベルでの黄色靭帯骨化等の所見が認められたが、それだけで直立姿勢がとれないということは考えられないし、車椅子に乗っているときの身体全体を棒のようにした姿勢は除脳硬直でもない限りはありえない不自然な姿勢であり、原告甲野のようにズボン、靴下着脱などの日常生活動作が可能な場合にはとても考えられないことであって、決して座れないということはないと思うと述べている。以上を総合考慮すると、原告甲野が椅子に座ることができないと認めるに足る証拠はなく、むしろ、その形態はさておいて、椅子に座ることができたものと推認される。そうすると、徳島刑務所では在監者を椅子に座らせて接見を実施しているが、この接見方法が一般的・常識的な取扱であると認められることからすれば、本人の改善教化及び他の受刑者に対する影響、ひいては刑務所内の規律維持に及ぼす支障等の観点から、身体の状況につき専門家である医師の診断により異常が認められない者に対しては椅子に座っての接見を義務付けているとしても、これは処遇上及び規律秩序維持上の必要性があるといえるし、また、椅子に座ることを拒む受刑者に対して接見を許さないということも、合理的範囲内の措置であるというべきである。したがって、本件接見を中止させた徳島刑務所長の措置を違法ということはできない。

(二) ⑫ないし⑭についても、黒岩保安課長及び津川弁護士の各証言によれば、いずれも原告甲野が椅子に座れないと言い張ったことによって接見が中止されるに至ったことは⑪と同様であり、したがって、徳島刑務所長の採った措置に違法性が認められないことも同様である。

三 徳島刑務所長の故意、過失等について

本件各接見について三〇分以内という時間制限がなされるまでの経緯は、前記二1のとおりであり、これに加えて、黒岩証言及び平井証言によれば、平成三年五月二九日、原告弁護士らが徳島刑務所長に対して接見時間の制限等の緩和を求めて話し合いを申し入れた際、徳島刑務所では、所長、管理部長等を交えた話し合いの結果、接見制限の理由は相当であって、従前の取扱を変更する余地はないと判断し、その旨の回答をしたことが認められる。そうすると、徳島刑務所長は、原告弁護士らから接見時間に対する配慮を強硬に求められて、これを検討する過程で、本件各接見に三〇分以内という条件を付することの違法性を認識し得たというべきであるから、ここに過失が認められるというべきである。また、⑩について、黒岩保安課長は、受刑者とその親族以外の者との接見の最終的決済権者は徳島刑務所長であるが、一次的決済は自分がしていたと証言しており、接見許否判断の権限が一部委ねられていたものと認められるところ、前記のとおり、黒岩保安課長の津川弁護士に対する対応をみるとき、その行為の違法性を十分に認識できたというべきであり、公務員である同課長には少なくとも過失が認められる。そして、原告らは、責任原因として黒岩保安課長の故意・過失も黙示的に主張しているものと考える。

なお、前記のとおり、監獄法施行規則一二七条一項、一二一条がB規約一四条一項や憲法に反する無効な規定であるとはいえないから、法務大臣が右規則の改廃、あるいはその不適用を通達しなかったことをもって、故意・過失があったということはできない。

五 損害について

本件における諸般の事情を考慮すると、接見時間を三〇分と制限されたこと(原告甲野について①ないし⑥、⑧及び⑨の八回、同戸田弁護士について①及び④ないし⑥の四回、同木下弁護士について①、②、④ないし⑥、⑧及び⑨の七回、同金子弁護士について②及び⑨の二回)による精神的苦痛を慰謝するには、各原告において一回の接見につき五万円が、接見できなかったこと(⑩)による原告甲野の精神的苦痛を慰謝するには一〇万円が相当である。

六 結論

よって、原告らの本訴請求は以上の限度で理由があり、その余は失当であって、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

徳島地方裁判所第二民事部

(裁判長裁判官朴木俊彦 裁判官近藤壽邦 裁判官大島淳司)

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